在留資格のない「仮放免」の子どもたち
日本で生まれたり、幼少期に来日したりしたものの、在留資格がない「仮放免」の20歳未満の子どもは、全国に約300名いるとされています(入管庁の調べ)。仮放免では、①就労の禁止、②住民票を作れない、③移動の制限があり、子どもたちの成長に大きな影響を及ぼしています。
その一つが慢性的な経済的貧困です。親も就労が認められないため、生きていくのに必要な衣食住でさえ満たすことができません。医療費や学費の工面も困難です。1日1食で学校に通っていたり、通学費が足りずに学校を休んでしまったりする現状をみてきました。さらに、住民票がないため国民健康保険に入ることができないうえ、200%300%も医療費を請求する病院もあり、病気になっても病院へ受診を控えるケースも少なくありません。また、トラウマと自己否定も深刻です。入管の職員からの「国に帰れ」「日本で勉強したって無駄」といった暴言や、親と離れ離れにさせられた経験が、トラウマや恐怖を植え付けるだけでなく、自分を「いてはいけない存在」と捉え、自身を否定してしまうことがあります。孤立しているケースも多いことから、子どもにとって親以外の身近な大人は “仮放免について知らない学校の先生” か “暴言を吐く入管職員” のみで、「助けてくれる大人はいない」と見捨てられた感覚に陥る子どももいます。
高等教育進学の壁
仮放免の子どもは、義務教育期間は就学援助を受けることができますが、高校生になると全ての公的支援から排除されます。就労が認められていないためアルバイトもできず、学費が賄えないため高校進学を諦めたり、中退したりするケースもあります。高校は卒業できたとしても専門学校・大学への進学はより困難です。仮放免であることを理由に受験に合格しても入学を認めない、受験することすら拒否するといった専門学校もあり、仮放免の高校生は進学先の選択肢が非常に限られています。
また、就労が見込めない在留状況ゆえに自身の将来について考えられなかったり、在留資格を得ることのみを考え進路の選択肢を最初から狭めたりする高校生もいます。身近に働く大人のロールモデルが極端に少ないうえ、修学旅行やアルバイトなどの社会経験が欠如しているため将来について考える材料があまりにも足りません。
仮放免高校生奨学金プロジェクト
こうした仮放免の子どもの声を聴き、反貧困ネットワークと移住者と連帯する全国ネットワーク貧困対策PTは、2023年1月に「仮放免高校生奨学金プロジェクト」を立ち上げました。2024年6月時点で、33名の高校生(仮放免27名、在留資格をもらえた高校生6名)を30名の大学生や大学院生のチューターが伴走をしています。さらに、7名が高校を卒業し、うち6名が大学や専門学校への進学を果たしました。
高校無償化の対象外とされている仮放免の高校生に対し、公立高校の1か月の学費相当分である1万円を奨学金としてお渡ししています。さらにチューターが定期的にご家庭などに訪問し、進学や生活についての相談を聞き、専門学校の説明会に同行したり、日本語や作文の指導をしたりしています。
仮放免高校生の声
ご飯を食べながら、2人と話すことは、自分を助けてくれる人がいると感じることができ、安心できます。
このプロジェクトに参加して感じたことは、一人じゃないんだということです。
チューターと友達になったので、何か困ったことがあったときに相談できる人になりました。
自分のまわりとはあまりできない将来の話が楽しいです。自分の世界が広がっていると思いました。
このプロジェクトは、反貧困ネットワークによる奨学金の現金給付と、国際NGOセーブ・ザ・チルドレンの子ども・地域応援ファンド、NPOまちぽっとの都内草の根助成金、アーユス仏教国際協力ネットワーク・「街の灯」支援事業の助成を得て継続ができています。皆さまからの支援が高校生の就学を支えています。今後も仮放免高校生の就学・進学を応援するためご寄付をいただけますと幸いです。
みずほ銀行 四谷支店(店番号 036)普通口座 3101887
口座名義 仮放免高校生奨学金プロジェクト
問い合わせ:shougakukin.project@gmail.com
豆の木プロジェクト
仮放免高校生奨学金プロジェクトのチューターが新たに、仮放免と元仮放免の子ども・若者を対象に、体験や自己表現の機会をつくる「豆の木プロジェクト」を2024年6月に立ち上げました。私たちチューターは仮放免の高校生や家族と継続的に関わる中で、進路や将来のことだけでなく、日常生活においてもあらゆる選択肢がなく、やりたいことが阻まれる現状を見聞きしてきました。そのような高校生が自身の進路について具体的にイメージするための材料を得ることを目的とし、カフェ運営や映像制作といった企画を進めていきます。
豆の木プロジェクトは、仮放免高校生の妹弟や在留資格を取得した高校生、高校卒業した仮放免の若者も多く関わっています。希望を抱けず「行きたいところ、やりたいこと」を考えることを諦めるのは高校生だけに限りませんし、仮放免状態でのストレスや自己否定は在留資格を取得したからと言って消えることはありません。
このプロジェクトを通して、仮放免と元仮放免の子ども・若者が自らの力で生きていくことを応援しつつも、何かあったらいつでも相談できるつながりがあるということを伝えたいという思いがあります。
今後、バーベキュー、運動会、セルフポートレートの鑑賞会、それぞれの国の料理教室など参加型のイベントをたくさん開催する予定です。さらに関東圏以外に住む仮放免や元仮放免の子ども・若者との交流も増やしていきたいと考えています。仮放免と元仮放免の子ども若者が大学生や地域の住民、他地域に暮らす当事者など様々な人とのつながりをつくり、自らやりたいことを見つけ、実現していく取り組みにしていきたいです。
仮放免の子ども・若者についてもっと知る
仮放免高校生奨学金プロジェクトに参加する高校生の手記やインタビューがまとめられた本が出版されます!
- 雨宮処凛 著『難民・移民のわたしたち これからの「共生」ガイド』 (河出書房新社 2024/08/27)
- アズ・ブローマ 文、なるかわ しんご 絵『私は十五歳』 (株式会社イマジネイション・プラス 2024/8/31)